
今日ね、お店の前に停めていた私の自転車を動かそうと思ったら、目の前の自転車が強風に煽られてバタバタと三台倒れてしまったの。
私が倒したわけじゃないですよ(笑)
…それで私は自分の自転車のスタンドを立て直して、倒れた自転車を起こしていたの。
そしたらその経緯を見ていた人がいたのね。
その人は倒れた自転車を起こし直してる私の隣に来て言ったの。
「あらあら、強風で倒れちゃったのね。この自転車は風向きにそって停めてたからマトモに風を受けたのね。アナタが悪いわけじゃないのに、アナタ、大変ね。私はこんなだから、手伝えなくてごめんなさい」
その人を見ると高齢で歩くのも難儀してるらしく、ショッピングカートに寄りかかりながら、やっとやっと立っているのでした。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。直ぐに戻せますから」
私はその人に言った。
「自転車が絡まっちゃってるわね!?」
「そうですね。でも、大丈夫です。三台くらい一人で立て直せますから」
自転車の一台にはハンドルのところに荷物をぶら下げていて、それが倒れた拍子に他の自転車に絡まってしまったのだ。
その絡まりを解く私。
「こんなに風が強いのにハンドルに荷物をぶら下げるから、この自転車は倒れたのよね。ハンドルに荷物をぶら下げたら、それだけでもバランスが悪くなるのに、この強風だもの倒れて当然よ」
その人は、一部始終を見ていたらしく私に説明してくれた。
私は苦笑いをして「そうですね。今日は風が強いですから、すぐに倒れてしまいますね」と答えて何とか一人で三台の自転車を立て直した。
「はい。これで元通りです」
私はやっと自分の自転車に戻れた。
するとその人は私に向かって「今日は風が強いからアナタも倒れないように気をつけてね」と声をかけてくださった。
…多分だけど、その人は、自転車を倒したのは私では無いことを通りを歩く人たちにアピールするためにワザワザ私に話しかけて下さったのでしょう。
見ず知らずの私をかばってくださっていたのです。
私は「ありがとうございます。アナタ様もお気を付けて」と言って、互いに会釈して別れました。
それでね、その数分後は私は本日は会議があり、会議室にいたの。
総勢50人ぐらいの会議です。
そしたら、私の隣に座った人(仮にAさんと呼ぶ)は、何かと日ごろの会の不平不満や愚痴を会議中にも関わらず、ずっと私に申し上げて来るの。
正直、私は会議中なのに迷惑な人だと思っていたけど、私よりも目上の人だし立場でも私よりも上の人だったので、私は迷惑に思いながらも「そうですね、そうですね」と相づちを打っていたの。
そしたら、それを見ていた他の役員が私を気の毒に思ったらしく「そんなに言うなら今ここで、その本人に電話をかけて文句を言ったらどうですか? 本人には言ったのですか?」と言ってくださったのです。
そして会長も、Aさんに「Aさんは何もしてくれなくて結構です。Aさんにしてもらう仕事はありません」とAさんを戒めて私をかばってくださったのです。
…役員と会長が私をかばってくださった。
…会も会議も今後も何十年と続いていく。
こんな風に会議でAさん一人を責めたら、今後の付き合いにも支障が出るでしょうに。
…人間って、こうして、いつでも誰かにかばわれて生きているのよね。
…自転車のあの方と言い、会議室の役員、会長と言い…
私はこんな風に誰かを本気でかばえる素敵な人間になれるでしょうか。
…いえ、私も、ならなくてはね。
…素敵な素敵な人たちの話でした。